partita 〜 世界演舞

第二章 孤独を開放する扉(1)


 北西の国ファラサーン。大陸最強の騎士団を組織する国だ。名誉ある騎士になるために、この地へやってくる者も多い。その騎士団の頂点にある[銀騎士隊(シルバー・リッター)]。その一個小隊が召集された。
「これより、我々は罪人の捜索に出る。罪状は我が住居内での傷害。伯爵弟妹への傷害罪だ。罪人には私がマーキングを施した。赤のマークを追う。では、出発!」
 小隊長らしき人物が夜闇に騎馬を走らせる。夜が明けてしまったら、印の効果が薄くなってしまう。なんとしても今夜中に捕らえたい。小隊長である伯爵はあの一瞬を忘れない。自分が連れてきた男が、突然倒れた瞬間を。
――― ……は、離れて……くだ……
 心配して近付く弟を押しのけたとき、その男はあのような姿になり、妹に襲いかかった。そして窓を割って逃走した。
(許さんぞ……)
 彼はマークを追って走らせる馬の手綱を強く握りしめた。大切な弟妹を傷つけられたことは彼にとって最大の屈辱だった。
 その夜、彼らは罪人を発見した。しかし捕らえることはできず、その後も追い続けることとなった。既に伯爵を動かすものは、傷つけられたプライドと、おさまらない怒りであった……。


* * *


 大地が騒ぐ。
「また、一つ生まれる」
 誰にもどうすることもできない運命とかいうもの。
「何故、道を選ぶことすらかなわない……」
 決して求めてはならない解答。
「歯車を回したのは、この手……」
 逃れられぬ者たちに差しのべる手は、ない。
「邂逅の時は近付いている」
 紡ぎだした糸は、断ち切ることを許さない。後へも、先へも行けぬまま、彷徨い続ける希望のかけら。
「期待は残酷。絶望は破滅への終焉……」
 もう、他に救いの手はない。信じることだけが、唯一の道……。
「……すべては、――― の、為に」
 すぐそこまで来ている一つの節目。秋ももうすぐ終わる。待ち続けることしか許されない者たちの、ささやかなる抵抗は ――― すべて闇に消え、光となる。



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