partita 〜 世界演舞

第二章 孤独を開放する扉(2)


 再び洞窟へ向かう一行は、その日は何事もなく夜を迎えた。小川のせせらぎが聞こえるところで野宿をし、朝となった。
「さぁて、飯メシっと」
 ミサキはふんふんと鼻歌まじりに枝と糸を使って釣り竿を作った。
「よぉし! 釣るぜぇ! シャンレイ、行くぞ!」
 張り切って小川の方へ行く。シャンレイもそれに続き、ミサキよりも川下へ行く。
「? シャンレイ。竿もなしに魚釣るのは相当難しいぜ?」
 ミサキは何も持たず、靴を脱ぎ始める武闘家に声をかける。しかし、彼女はふと笑みを見せると小川へ入っていった。じっと水面を見つめる。魚たちが何事もないように泳ぐ。シャンレイは目の前で魚が止まると、見えないほどのスピードで魚を捕まえた。
「す、凄ぇ……」
 ミサキは唸った。シャンレイはその要領で、五匹ほど捕獲した。その間、ミサキが釣ったのは三匹だった。入れ食い状態ではある。二人が戻ると、パレッティが枯れ枝を焚き火にくべている。
「わぁ! 大量じゃん!」
 パレッティは嬉しそうな顔で、二人の持つ魚を見た。シャンレイは木の枝でそれを串刺しにすると、焚き火のそばに刺した。旨そうなにおいが充満する。
「そんな川魚なんて下等なもの、僕が食べると思ってるの?」
 パズズは断固として、焼いた魚を口にしようとはしなかった。すると、パレッティがシャンレイにそっと教える。
(パズズ、お魚苦手なんだよ)
 くすくすと笑う。目ざといパズズはそれを見逃さない。
「ちょっとパレッティ、何言ってるの? 口に合わないだけなんだからっ」
「そうか。パズズが食わねぇなら俺が食ってやるぜ」
 ミサキは嬉々として焼けたものを両手に持って、勢いよくかぶりついた。その食べっぷりを、パレッティは呆然と眺めていた。シャンレイは辺りを見回した。様々な木が好きなように伸びている。すると見覚えのある木が一本、視界に入った。
「あ? シャンレイ、何処行くんだ?」
 立ち上がった彼女にミサキは魚を頬張りながら声をかける。
「我が儘な王子のために食料調達だ。目の届く範囲にはいる」
 シャンレイはそう答えると、人外の跳躍力を生かして少し離れた高木に登る。パズズは面白くなさそうに溜息をつく。
「何が『目の届く範囲にはいる』だよ。ぜーんぜんっ見えないじゃない」
「ま、あいつのことだ。心配ないだろ」
 ミサキはまったく気にかけておらず、次の魚を取った。
「あぁっ! ミサキ、だめ! それはあたしのっ!」
 パレッティはミサキが手に取った四匹目の魚を奪い返そうとした。
「おっと、早いモン勝ちだぜ。パレッティ」
 ミサキはすかさず魚に噛みつく。パレッティは口をとがらせて、「いぢわる」と連呼した。すると、木の上からシャンレイが降りてきた。手には数個の赤い果実を抱えている。それを見たパレッティがシャンレイに尋ねる。
「なぁに、それ?」
 好奇心からシャンレイに近づいた。
「紅火(こうか)の木の実だ」
 シャンレイは荷物の中から布を取り出し、それを広げた上に果実を乗せる。一つをパズズに差し出した。それはシャンレイが片手で握れるほどの大きさだが、パズズにすれば頭ほどもある。当然、彼は嫌そうだ。
「皮をむいて食べてみるといい」
 シャンレイの自信ありげな顔に、仕方なくパズズは受け取る。皮をむくと、その赤からは想像できないほど白い実が出てきた。かじりついて味をみたパズズはハッとした。
「さて、これは小川で冷やしておく。食後に食べよう」
 シャンレイはパズズの表情を見て、満足そうに小川へ向かった。
「パズズ? それ、おいしいの?」
 パレッティがその果実を食べたそうに見ている。唇に指をあて、何となく物欲しそうだ。パズズはぷいっと顔を逸らす。
「あげない」
 すると、パレッティはぷうっと頬を膨らませた。そして、パズズから果実を奪おうとする。
「! だ、だめっ!」
 珍しくパズズは焦って、パレッティの届かないところまで舞い上がる。
「何でだめなのぉ?」
 パレッティの抗議に、噛みつかんばかりの勢いで言葉を投げつける。
「子供の食べるようなものじゃないのっ」
 そこへシャンレイが戻ってきた。パレッティは彼女にパズズへの文句を言う。
「シャンレーイ! パズズがあの果物、味見させてくれないよぉ」
 パズズはその言葉に憤慨する。
「ケチみたいに言わないでよ! 子供の食べるものじゃないって言ってるでしょっ!」
 するとシャンレイは少し笑った。
「大丈夫だ、パズズ。酒のような味はするが、酔ったりはしない」
 そう言うと紅火の実を取りに戻り、パレッティに渡す。パズズは自分らしくない行動をとったことに戸惑っているようだった。
「おいしい! これ、すっごくおいしいね!」
 パレッティは一口食べると、宝物を見つけたような表情を見せた。その時、シャンレイは川下の方へ目を向けた。パズズも何かに気付いているようだ。
「……どうかしたのか?」
 ミサキは魚を頬張ったままシャンレイを見上げた。シャンレイの目が険しい。
「――― 獣か?」
「……違うね。獣にしては大人しすぎる」
 パズズはそう返すと姿を消した。突然消えてしまったパズズに、ミサキは慌てた。
「な、何だっ? あのちっこい奴、いなくなっちまったぜっ」
「ここにいるよっ」
 パズズはミサキの頭を蹴る。ミサキは不思議そうに頭上を見て首を傾げる。
「川下の方?」
 パレッティはシャンレイの隣に立ってそちらを見る。
「あぁ」
 シャンレイは頷いた。確かにそこに何かいる。しかし、そのオーラは今までに見たことがない。殺気も闘気も感じられないが、こちらにゆっくりと向かってきている。
「……危険じゃないみたい」
 パレッティが呟いた。ハッとして彼女の方を振り向くと、若葉のような瞳が鮮血の色に染まっている。
「パ、パレッティ……?」
「パレッティは『何か』を色で捉えることができる。その『何か』の感情とか意志みたいなものを色覚で感じることができるんだ。もっとも、目標の位置がわかれば、だけど」
 パズズの声だ。シャンレイはごくりと喉を鳴らした。今、この少女のオーラは畏怖させるものを含んでいる。
「……? あれぇ? 感情じゃなくて、本能で動いてるみたいだよ」
 パレッティは首を傾げ、シャンレイを見上げた。その瞳は元に戻っている。
「あんだぁ? 敵さんかぁ?」
 よっこらしょ、と声をかけてミサキが立ち上がる。パレッティは彼女に目を向けた。
「敵じゃないみたい。人なのか、獣なのかよくわかんないけど」
 ミサキは眉をひそめた。
「マタギじゃねぇのか?」
「いや、マタギならば人間の方へ近寄ってこないだろう」
 シャンレイは意を決し、その気配のする方へ足を踏み出した。
「おい、シャンレイ」
 ミサキが心配そうに声をかける。
「案ずるな。危険はないとパレッティが言っている。私が戻るまで、そこを動かないでくれ」
 シャンレイは足音を殺し、気配を断った。一陣の風が吹くと、彼女はまるで消えたかのように見えなくなった。
「!?」
 パレッティもミサキもさすがに驚いて、目をこすったり瞬きを繰り返したりする。
「森の気配にうまく混ざっただけだよ」
 パズズは気にもせずに、また紅火の実を食べ始めた。二人はお互いに顔を見合わせ、再びシャンレイの消えた方を見つめる。
 シャンレイは不思議なオーラの正体に近付きつつあった。
(あれか……?)
 鈍色に光るものが視界に入った。風が吹き付けると、それにあわせて距離を縮める。どうやら、これがそのオーラの正体のようだ。
(……人間じゃないか)
 少年と青年のちょうど中間くらいの年と思われる。 大剣を背負った傷だらけの体を俯せにして、動かずに荒い息をしている。先程光ったのは、この大剣の鞘の部分のようだ。
「どうしたのだ?」
 シャンレイが声をかけると、薄く目を開くが返事はない。その代わりに腹の虫が答える。
「……」
 シャンレイは唖然としたが、仕方なく少年を背負ってみんなのところへ戻る。すると、待っていた三人は銀色の髪のその少年を観察した。
「人だ……」
 パレッティが独り言のように呟く。
「怪我してるじゃねぇか」
 ミサキの言葉に頷くと、シャンレイは木に寄りかかるように少年を座らせた。
「……行き倒れだ。極度の空腹のせいで動けないようだ。ミサキ、私の分の魚を彼に……」
 シャンレイはそう言ってミサキを見上げた。すると、ミサキは困った顔で笑った。
「いやぁ、はっはっはっ……」
 乾いた声が響く。
「ミサキったらみーんな食べちゃったのよ」
 パレッティは呆れ半分、怒り半分でシャンレイに言う。予想外の出来事にシャンレイは頭を抱えた。
「パレッティは水と紅火の実を持ってきてくれ。ミサキは魚を捕まえてくるまで戻ってこないこと」
 とりあえず指示を出し、自分は荷物から薬や布を用意する。手当の準備が整った頃、タイミング良くパレッティが戻ってきた。
「持ってきたよ。水は水袋一つ分しかないけど、よかった?」
 パレッティは果物を抱えたまま水袋を差し出す。シャンレイはそれを受け取ると頷いてみせた。
「あぁ。足りなければまた汲んでくればいいだろう」
 パレッティは抱えている物を適当な場所に置くとシャンレイの指示を待つ。
「あとは何かすることある?」
「じゃあ、彼の服の裾をまくってくれ」
 シャンレイの言葉に彼女は仕事を開始した。シャンレイは傷口を水で洗い流すと、薬を塗る。少年は顔をしかめ、微かな呻き声を上げる。
「男だろう。我慢しろ」
 シャンレイは厳しく言うと、治療を再開する。傷はたくさんあったが、それ自体はそれほど深いものではない。剣で切られたような傷の他に、魔法か何かでやられたような傷もあった。
(人間か、はたまた知能の高い妖魔か……)
 手当が終わるとコップに水を注ぎ、少々塩を加えて少年に飲ませた。その頃、ミサキは二匹の魚を釣ってきた。それを串焼きにする。
「食わなきゃ生きていけねぇ。人として当然の欲求だ。さぁ食え。死ぬほど食いやがれ」
 ミサキは魚を差し出す。
「……ミサキ、 ちゃんと焼いてやれ」
 呆れたようにシャンレイは溜息を零した。パレッティはその間に少年の膝の上に布を広げ、紅火の実を置いた。
「皮をむいて食べてね」
 パレッティの忠告にも関わらず、少年はそのまま物凄い勢いですべてたいらげてしまった。ミサキですら口をあんぐり開けて見ている。
「……そ、 相当腹減ってたんだな……」
 その言葉にパレッティが頷いた。
「うん。なんか、犬みたい。尻尾があったら振ってそうだよね」
 なんだか楽しそうに観察を続ける。
「何言ってるの。このお兄ちゃん、ライカンスロープだよ」
 はあ、と大きく息を吐くパズズの言葉に、皆の時が止まった。
「ラ、ライカンスロープなの!?」
 パレッティは天地がひっくり返るような声をあげた。ミサキも驚愕の表情を見せる。
「らいかんすろぉぷ?」
 シャンレイが首を傾げる。
「つまりは人狼のことだ」
 ミサキの説明にシャンレイは想像を巡らしていた。
「……人狼……」
「まさか、知らねぇのか?」
「知らない」
 端的に答える彼女にパズズは思いっきり呆れ果てた。
「シャンレイって、本っっっっっ当に無知なんだねっ!」
「仕方ないだろう。私は物心ついたときには、既に山中で修行していた。故に世間のことには疎いのだ」
 シャンレイは恥じることなくそう返した。パズズは頭をぐしゃぐしゃと掻く。
「ライカンスロープっていうのは、何かの拍子に狼に姿を変えてしまう種族のことだよっ!」
 そして面倒くさそうに言葉を投げつけた。シャンレイはふむふむ、と頷いた。
「成程。そういうことか。……ということは珍しいのか? それとも危険なのか?」
「両方に決まってるでしょっ!」
 パズズは当然、と言わんばかりに怒鳴る。パレッティは草の生い茂る地面にしゃがみ込んで少年の顔をのぞく。
「この人、悪い人じゃないと思うんだけど……」
 彼女の呟きに少年はハッとして視線を合わせた。天真爛漫なこの少女の笑顔にいささか驚いている。シャンレイは魚が焼けたのを確認すると、彼に差し出した。
「あとでその傷と行き倒れの理由を教えてくれ。私はシャンレイという」
 少年は魚を受け取ると軽く頭を下げ、ようやく口を開いた。
「――― 俺は、ソルティです」
「あたしはパレッティ。こっちは守護者のパズズ」
 パレッティは姿を消していたパズズを捕まえた。パズズは姿を現したが、ソルティを見ようとはしなかった。
「俺はミサキだ」
 ミサキが不敵な笑みを浮かべた。自己紹介が終わると、ソルティは先程とは変わって静かに魚を食べ始めた。
 ソルティは落ち着くと今までのことを語り始めた。
「十日ほど前、俺は騎士になるべくファラサーンへ行ったんです」
 着いたはいいが、どうしていいかわからずにいると、一人の男が声をかけてきた。
「あ、それで怪しまれたんだな」
 ミサキは面白そうに茶化す。
「違いますよ。道でぼうっと突っ立っていたから、どうかしたのかと訊かれたんです」
 ソルティは事情を話した。すると、男はどうやら彼を気に入ったらしく、明日にでも騎士団に取り入ってくれると約束をしてくれた。さらに、宿を決めていないなら部屋を貸すとまで言う。
「なんか、胡散臭くない?」
 パレッティが眉をひそめた。
「俺もそう思ったんですが、彼は高位の騎士で貴族だったんです」
 街の人たちからも頼られているその男を信じることにしたソルティは、彼の屋敷に泊まることとなった。
「ですが、食事の時になって発作が起こったんです」
 男の家族も同席したその晩餐に、ソルティは狼化の前兆である発作で倒れた。介抱しようと近付く者を押しのけて、自分の中の獣を抑えようと必死になった。
「狼になってしまったら、自分の意識はなくなって、何をするかわからなくなってしまう」
 しかし、止めることはできなかった。気がつくと、体中にガラスの破片が刺さっていた。そして騎士たちが近付いてくるのを察知した。自分がしたことを知らされ、混乱して逃げまどった。
「そして、今日に至るわけです……」
 ソルティはふう、と一息つく。
「つまり、十日も追われたまんまってことか?」
 ミサキは目をまるくして彼を見た。
「そういうことです」
 ソルティは気落ちしているようだった。その様子にパレティは腕を組んで考え込む。
「あたしもファラサーン出身だけど、どうして何の悪気のないソルティを追いかけるのかなあ……」
 彼女はパズズに答えを求めるように目を向けるが、使者殿は肩をすくめるだけだった。
「パレッティの故郷なのか?」
 シャンレイはふと問う。
「うん。ファラサーンの騎士団は四つの部隊で構成されているの。その一番強いって言われてるのが[銀騎士隊]。 武器と魔法を使うファラサーンの守護者たち。でも、一人を追いかけるにしては大げさよね」
 パレッティはなんだか納得できないようだ。すると、パズズが面倒くさそうにそれに答える。
「だって、貴族を傷つけた上にライカンスロープなんだよ。それくらいは当たり前でしょ」
 ソルティはさらに落ち込んだ。
「でも、騎士団をここまで育てたナントカ様っていう貴族の人、凄く切れる常識者だって聞いたから……」
「だからそのようなことはさせないだろう、ということか」
 シャンレイはパレッティの言葉を続けた。彼女は小さく頷く。
「一国の騎士団を一人で見違えるほど強くした男ねぇ……」
 ミサキはあさっての方向を見て、ニヤリとほくそ笑む。
「まさか、会ったら手合わせ願おうとか言うのではあるまいな。そんな相手とやり合えば、私とてただでは済まされんぞ」
 シャンレイは彼女の心を見透かすような目を向けた。思わず黙り込むミサキは、シャンレイとの戦いを思い出していた。
「それはともかく、追われている事実は変わらないだろう」
 さて、どうしたものか、と考えるシャンレイにパレッティはその袖を引く。言葉にはしないパレッティと視線を合わせると、二人はソルティの方に向き直る。そんな様子にパズズは一抹の不安を覚えた。
「……まさかこのお尋ね者、連れて歩くわけじゃ、ないよね……?」
「うん。そうしようと思ってた」
「私も同意見だ」
 やっぱり、とパズズは一度肩を落とすが、気を取り直して猛然と食いかかってくる。
「ソルティはお尋ね者なんだよ!僕たちには目的があるでしょっ!?」
「でも、ねぇ……」
 パレッティはシャンレイに意見を求めた。シャンレイはそれに気付くとソルティにもう一度目を向けた。彼はその視線にビクン、と身を震わせた。すべてを暴き出すような鋭い輝きが全身に突き刺さる。
「……狼となったのは彼の意志ではない。 彼が一方的に悪とされるのはおかしい。騎士団やその貴族とも話せば解り合えるはずだ。それに戦力は多い方がいい」
 シャンレイは目を伏せ、言葉を選んだ。
「じゃあ、むこうが理解しなかったらどうするのさ?」
 パズズは苛立ちをそのままぶつけてくる。シャンレイは彼に視線を返す。
「――― 強行する」
 その一言にパズズは満足そうに笑みを見せた。
「楽しくなりそうだから、今回は許してあげる」
「――― と、いうわけだ。パレッティ」
 シャンレイはこの少女の頭をポンとたたくと、小川の方へ行ってしまった。ミサキも鼻歌を歌いながらその後を追う。
(……任されたのかなぁ?)
 パレッティは改めてソルティを見た。ソルティは何も把握できなかったようで、戸惑っていた。
「あのね、あたしたちはこの先の洞窟を目指してるの。ソルティも一緒に行ってくれる?シャンレイたちは賛成みたいだし」
 パレッティは明るい口調でそう訊いた。
「でも、皆さんを巻き込んでしまいますよ?」
 躊躇ってうつむき加減に聞き返す。
「仲間なら『持ちつ持たれつ』でしょ?」
 パレッティは自信満々で微笑んだ。すると、焦れったくなったパズズが横からしゃしゃり出てきた。
「この僕がいいって言ってるのに、まだ悩んでるの!? ついてこないなんて言ったらただじゃ済まないからねっ!」
 ソルティの顔面に近付いて、がみがみと怒鳴る。ソルティは不思議なものを見るかのようにしばらくパズズを観察していたが、ふとパレッティの方を見た。
「……皆さんがいいと言うなら同行します」
 ソルティはようやく承諾した。パレッティの顔がパッと明るくなる。
「ありがとう。じゃあ、敬語はなしだね。だってもう仲間なんだから」
 ソルティはその言葉に微笑んだ。
「――― 話はまとまったようだな」
 戻ってきたシャンレイは荷物をまとめ始めた。パレッティはしっかり頷く。
「そうか。このパーティで唯一の男だ。しっかりやれよ!」
 ミサキも戻ってきて、ソルティの肩をバシバシ叩きながら豪快に笑う。一瞬間、時が止まった。みんなの視線はソルティに集まっている。意表をつかれたように唖然とするソルティは、事態を把握しかねている。
「……唯一の、男……?」
 その呟きに、今度はミサキがきょとんとなった。
「何言ってんだ?」
 ソルティの視線はミサキとシャンレイに向いている。
「もう、ソルティ! シャンレイもミサキも、女の人だよ!」
 パレッティは失礼な、と言わんばかりに怒ってみせる。
「かく言うパレッティだって間違えたじゃない」
 呆れたパズズが口を出す。すると、事をようやく理解したソルティが申し訳なさそうな表情をした。
「ご、ごめん。気がつかなかった……」
 それに対して、ミサキは突然笑い出した。
「はっはっはっ!そうかっ、男に見えるか!」
 何故か楽しそうな彼女に、パレッティはびっくりした。
「ど、どうしたの、ミサキ?」
「いいんだよ、パレッティ。俺は男だと思われた方がなっ」
 嬉々として言うミサキの心情は、この少女には理解できなかった。
「どうして?」
「もちろん、男に見えるということは、強く見えるということだからだっ!」
 胸を張って答えるミサキはなんだか誇らしげだ。パレッティはますますわからなくなった。ソルティもパズズも唖然としている。何も反応を示さないシャンレイに、パレッティは答えを求める。
「――― 男に見えることが強く見えることなのかは疑問だが、 私は男に見えようが、女に見えようが構わない。性別など、後から付いてきたに過ぎないからな」
 シャンレイは目を伏せた。何かを思い出しているようだ。皆の視線が自ずと集まる。
「……私が男であろうが、女であろうが私であることにかわりはない」
 ふと自嘲めいた笑みを浮かべると、出発の準備を整える。皆もそれに倣う。ミサキだけは何故かシャンレイの見せたあの笑みに、引っかかるものを感じていた。



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